#14,満身創痍で練習不足な再起戦前夜
いよいよ地元のつながりで、アベレージ90台で回る猛者2名とのラウンドが決まった。
長きにわたる沈黙を破り、私のコース再デビュー戦の幕が上がる。
思えば昨年冬、スキーへと意識をシフトしていた矢先の1月、左ふくらはぎの肉離れという不運に見舞われた。
結果、スキーもゴルフも強制休止。春先には復帰するつもりだったが、圧倒的な忙しさに忙殺され、クラブを握る余裕すらなかった。
事態が動いたのはGW明けだ。
以前から社交辞令のように「いつか回ろう」と話していた2人との酒の席。
そこでトントン拍子に話が進み、ラウンド日が6月10日に設定されたのだ。
(後に幹事の都合で1日前倒しになり、6月9日が本番となる)
ブランクがもたらした「究極のノイズキャンセル」
ラウンドが決まったとはいえ、圧倒的な練習不足。
不安しかなかった私は、合間を縫って久しぶりに打ちっぱなしへ向かった。
しかし、ここで予期せぬ化学反応が起きる。
結果が想定外に良かったのだ。
昨年のハイペースな練習状態であれば、
「クラブの軌道が」
「テイクバックの位置が違う」
「フォローをもっと出さなきゃ」
と、頭の中は理論という名のノイズで溢れ、泥沼にはまっていたことだろう。
しかし、強制的なブランクがそのノイズを完全にリセットしてくれた。
余計な思考が消え去り、体の奥底にある「良いスイングの記憶」だけが純粋に呼び起こされたのだとAIは分析してくれた。
最初はメインクラブを壊すことを恐れ、補欠のクラブで打っていた。
しかし、これがまた驚くほど当たる。
かつての私は、ミスが続くと「このクラブは自分に合っていない」と自己暗示にかけていたのではないか?
そう疑うほどの調子の良さだった。
ここで私は、一つの真理に辿り着いた。
「クラブのせいにするレベルにすら、私は達していなかった」ということだ。
ある程度のスペックがマッチしているクラブなら、あとは打ち手の問題。クラブの特性なりに素直に振れば、ゴルフは大崩れしない。
このブランクは、私から「言い訳」を奪い、己のスイングと真正面から向き合う覚悟を決めさせてくれた。

決戦5日前。信頼していた6Hの一振りで腰が砕ける
日程が1日前倒しになり、焦りを感じた私は、決戦5日前に再び練習場へ足を運んだ。気合を入れて2カゴ分のボールを購入し、打席に入る。
まずは、最も信頼する神クラブ「6H」からだ。
今日もあの飛を魅せてくれるはずだと信じて打ち込んだ。
しかし、放たれた初弾は大きくトップした。
スイングの瞬間、腰に微かな違和感を覚え、無意識に上体が起き上がっていたのだと思う。
嫌な予感がした。
原因を確かめるべく、次はしっかりと前傾姿勢をキープして振り抜く。
その瞬間、違和感は明確な「激痛」へと変わった。
ボールは狙い通りの方向へ飛び出したものの、初速も高さも出ず、踏ん張りを欠いた弱々しいスライス軌道を描いて落ちた。
マズイ。完全に腰をやってしまった。
ごまかしながら3打目の素振りを試みるも、腰はすでに悲鳴を上げている。
アイアンに持ち替えても結果は同じ。
この状態でフルスイングは不可能だ。
ボールはまだカゴにたっぷり残っている。
周囲の高齢ゴルファーたちにお裾分けして帰ることも頭をよぎったが、配り歩くには量が多すぎる。
私は腹を括った。
ウェッジで凌ぐしかない。
極力腰を回さず、腕のストロークだけで52°を中心に、56°と48°を交えながら50ヤード前後のアプローチだけを打ち続けた。
痛みに耐えながら2カゴを消化し終え帰宅した頃には、私の腰は完全に限界を超えていた。
鍼治療、運動会、そしてアクティブリカバリー
即座に整骨院を予約し、鍼を打ってもらった。
しかし刺激が強すぎたのか、帰宅後は身動きすら取れなくなり、翌日は丸一日ほとんど何もできずに潰れた。
再起戦キャンセルという言葉が脳裏をよぎる。
整体師の言葉も「おすすめはしないが、なんとかなるかもしれない」という玉虫色のニュアンスだった。
さらに運の悪いことに、その翌日は地域の運動会だ。
私は多少の融通が利く立場にいる。
それを最大限に利用し、最も身体的負担が軽そうな「輪投げ」にのみエントリーした。
腕だけで投げればいいだろうと甘く見ていたのだ。
だが、輪投げを舐めてはいけない。
あれは「しっかり腰を入れないと狙い通り飛ばない」競技だったのだ。
しかし、少しずつ快方に向かっている腰をここで再び破壊するわけにはいかない。
私はチームには申し訳ないがスコアを捨て、ひたすら手打ちの「腕投げ」に徹した。
個人の成績は散々だったが、なぜかチームは総合優勝を果たしてしまうという、なんとも複雑な勝利を味わった。
ただ、この運動会が良い方向に作用したのかもしれない。
輪投げしかしていないとはいえ、グラウンド中を歩き回ったことが、結果的に患部をほぐす「アクティブリカバリー(積極的休養)」になったのだ。
絶対安静よりも適度な運動が治りを早くするというのは、どうやら本当らしい。
腹は決まった。いざ、芝の上へ
このまま順調に回復すれば、なんとかラウンドはできそうだ。
ここでキャンセルすれば、次の機会がいつになるか分からない。
今回の初戦は、スコアの良し悪しよりも「再びコースの空気を吸い、現場の熱量を感じ、練習場では知りえない実戦経験」に最大の意味がある。
私は、満身創痍のまま参戦する決意を固めた。
前日、再度整骨院へ駆け込み、マッサージと矯正を受ける。
整体師からは「いつも通りとはいかない。だが、初動の動き出しさえ注意すれば回れる」という条件付きのゴーサインが出た。
その足でゼビオに向かい、ソフトタイプのコルセットを購入。
帰宅後は、いよいよ明日に迫った本番に向けて入念にギアの準備を整えた。
左足の肉離れから始まり、極端な練習不足、そして直前の腰痛。
お世辞にも万全とは言えない。この状態でコースに出たら一体どうなるのかという「不安」。
だがそれ以上に、長いブランクを経て再び芝の上に立てるという「喜び」が勝っていた。
興奮で眠れないかもしれないと危惧したが、心配は無用だった。
ベッドに入った私は、翌日のティーグラウンドを思い描きながら、泥のように深く、そして完璧な眠りについたのである。
明日はいよいよ再起戦だ。











