#15,復帰戦「現代ゴルフ」の洗礼。プレーフーストの荒波でパニック状態!?
再デビュー戦当日の朝。
アラームが鳴る前に、あっけないほど普通に目が覚めた。
自営業ゆえに時間の融通は効くとはいえ、平日の昼間っからゴルフへ向かうというこの微妙な背徳感。
家を出る際、妻や子ども達には心の中で「申し訳ない…!」と深く頭を下げつつ、静かにドアを閉めた。
しかし、私の脳内を支配していたのは罪悪感ではない。
「果たして、この左腰は1ラウンド持ってくれるのだろうか?」という切実な不安だ。
ほんの4日前にぎっくり腰の診断を受けていたからだ。
一応前日に整体師から「「いつも通りとはいかない。だが、初動の動き出しさえ注意すれば回れる」」といわれていたが、逆に言えばそれさえ注意すればだいじょぶという意味でポジティブに捉えた。
朝食を押し込み、頼みの綱であるザムストのコルセットを装着していざ出陣である。

市街地を抜け、クマが出そうな山道をひたすら上っていく。
目指すは、復帰後初となる完全初見のコース。
クラブハウスに到着すると、独特の緊張感が胸を締め付けた。
同行者の到着を待ちながら、ソワソワと車内で待機する。
天候は曇り時々雨。
少し肌寒い気もするが、今のところギリギリ雨は持ちこたえている。
やがて同行者の車が到着し、エントランスの車寄せでキャディバッグを下ろし始めた。
すかさずそこへ向かい、浦島太郎状態の私は「これ、どうすればいいですか?」と手順を教わる。
なるほど、バッグはここで一旦下ろすものの、指定されたカートへは自分で積み込むスタイルらしい。
言われた通りにチェックインを済ませ、マイバッグを指定されたカートへ積み込む。
今日は3名でのラウンド。
もう1名が到着するまでの間、我々先着組で練習場へ向かうことになった。
パターを1本抜いてついて行ったが、どうやらここはグリーン上のパター練習場のみのようだ。
数本転がして打感を確かめていると、最後の1名も無事に到着。
いよいよスタートの合図が迫る。
ここまでの流れをサラッと書いたが、我々ブランクのある復帰組にとって、この「コース到着からスタートまで」の手順は意外な難関チェックポイントである。
誰も手取り足取り教えてくれない環境だと、到着して最初に何をすべきかすら「???」状態なのだ。
ここで、復帰組・初心者向けに「ゴルフ場到着からの基本てきな流れ」をログとして記録しておきたい。
ゴルフ場到着からの大まかな流れ
キャディバッグを所定の場所に下ろし、フロントでチェックインを済ませる
カートの位置を確認し、自分のバッグをセット(または係員に確認)
パッティンググリーンや練習場で軽くウォーミングアップ
指定時刻までにカートへ移動し、スタートを待つ
文字にすればこれだけだが、現地では何が何だか分からないのが本音だ。
ブランクが長い場合や初回は、慣れた人と同行するのが絶対に無難である。
一度現場を経験すれば、身体が勝手に手順を思い出してくれるはずだ。
さて、我々の組はアウトコースからのスタートとなった。
乗込み指示が出たカートに向かうと、そこには最新の自動運転システムと大型モニターが搭載されていた。
コースガイドはもちろん、スコア入力機能や、後続組が近づくとアラートで教えてくれる安全機能までついている。
便利になったものだ。
私以外の2人は脂の乗ったベテランゴルファー。
手際よくサクサクと準備を進めていく。
そう、現代ゴルフにおいて何より優先されるのは、個人スコア以上に「プレーフースト(速やかな進行)」なのだ。
昔もマナーとして言われていたが、今はそれがさらに厳格化されている。
復帰組は特に警戒が必要だ。
ティイングエリアに入るやいなや、ベテラン勢は当たり前のように速やかにティーとボールをセット。
一発サッと素振りを入れ、二発目にはもう「サクッ」と本番のショットを放っていく。
この圧倒的なテンポ感を目の当たりにして、「じっくりアドレスをとって、脱力OSとフェースの向きを確認して…」などという思考の時間は1秒たりとも存在しない。
私も焦りに背中を押され、なるべく早く打つことだけに全集中した。
正直、最初の数ホールまでは自分がどうやって打ったかも怪しく、何度かティーを回収し忘れて走って戻るほどにテンパっていた。
「2打目を探し回るのが大変だから、カートから降りる時はクラブを何本かもっていくといいよ」
同行者からのありがたいアドバイス。
そうだ、初心者やトラブルショットの際、カートに戻っている時間など存在しないのだ。
グリーンまでに使いそうな候補(ウエッジやアイアン)を数本束ねて持ち、ボールの落下地点へ走る。
運良くフェアウェイで見つかれば上出来だ。
プレーフーストの精神に基づき、ボール探しにも時間制限(3分間)がある。
自分の打球がどこへ飛んで行ったか、血眼になって行き先をロックオンしておかなければならない。
さらにはマナーとして同行者のボールの行方も可能な限り視界に収めておく必要がある。
優雅に世間話でもしていようものなら、一瞬で「あれ?どこ落ちたっけ?」となる。
黙々と歩き、目を皿のようにして探し続ける。それでも見つからない……。
隣のコースのフェアウェイに飛び込んでいれば、まだ儲けものだ。
他組の状況を確認し、迷惑にならないよう一言挨拶してそのまま打てばいい。
見つけやすいカラーボールを使うのも手だが、それも気休めに過ぎない。
往々にして、ボールは「行ってほしくない場所」へと吸い込まれていく。
結論として、「2打目以降はカートに乗れない、戻れない」と思っておくのが精神衛生上よろしい。
おかげで1ホール目が終わる頃には、朝方の肌寒さなど跡形もなく吹き飛んでいた。
焦りと汗でまみれた再デビュー戦。
スコアを気にする以前に、この「プレーフーストという大波」を生き残るための戦いが、静かに幕を開けたのだった。
(【後編】へ続く)











